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大阪地方裁判所 昭和24年(行)67号 判決 1949年12月23日

原告

浅津〓夫

被告

大阪市長

主文

原告の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

原告は被告が昭和二十二年十二月十日原告の給與に関する異議申立に対し爲した却下処分の無効なることを確認するとの判決を求めた。

事実

原告は昭和十六年一月大阪市臨時雇に採用せられ、昭和二十一年八月書記に昇進したが、被告は成規の手続を経ないで昭和二十二年七月二十六日原告を懲戒免職処分に付した。しかし右処分は無効で原告には法規の定める給与全額が支払わるべきであるから原告は昭和二十二年十二月三日地方自治法第二百六條第一項に基き書面をもつて右給与に関し異議の申立をしたが、被告は故ら原告が自己の意思でこれを取り下げたと称して同月十日右異議申立を却下したのである。しかし原告は自ら右異議の申立を取り下げたことなく右却下処分は無効であるからこれが確認を求めると述べ、原告が被告主張のような行政訴訟を提起し、その主張のような判決があつてこれが確定したことはこれを認めると附陳し、証拠として甲第一、二、三号証を提出し証人大重正俊の証言を援用した。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中原告がその主張の日、その主張のような職員として大阪市に勤務していたことはこれを認めるがその余の事実は全部否認する原告は被告を相手方として大阪地方裁判所に「被告が原告に対し為した昭和二十二年七月二十二日付懲戒免職処分及び同年十月二十八日付休職処分を取り消すとの判決を求める行政訴訟を提起したが右懲戒処分の事実はない休職処分については取消の理由がないとの理由で原告敗訴の判決あり控訴したが棄却となり右判決が確定した」と陳述し、証拠として証人北原良雄の証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

まず職権をもつて被告代理人が本件訴訟を行うことの適否を考えるのに本件訴訟は地方公共團体の機関である大阪市長を被告とするものであるから行政廳を被告とするいわゆる行政訴訟である。そして被告が地方自治法第百五十三條第一項により大阪市主事大重正俊、大阪市書記横谷義人を臨時市長代理とし弁護士でない右両名をして訴訟行爲を爲さしめるのは一見違法の如く思われるが被告提出の書面によると、右代理は本件当事者間の大阪地方裁判所昭和二十四年(行)第六七号事件に関する一切の行爲に関しとあるからその趣旨は所部の職員である右二名を指定し、これをして本件訴訟を行わすものであると解することができるから國の利害に関係のある訴訟についての法務総裁の権限等に関する法律第五條により右二名は指定代理人として適法に本件訴訟を行うことを得るものといわねばならぬ。

よつて、本案について考えるに、原告主張事実中原告がその主張の日その主張のような職員として大阪市に勤務していたこと、原告がさきに被告を相手方として大阪地方裁判所に「被告が原告に対し爲した昭和二十二年七月二十二日付懲戒免職処分及び同年十月二十八日付休職処分を取り消す」との判決を求める行政訴訟を提起したが右懲戒処分の事実はない、休職処分については取消の理由がないとの理由で原告敗訴の判決あり、控訴したが棄却となり右判決が確定したことは当事者間に爭がない。

原告は被告が昭和二十二年十二月十日原告の異議申立を却下したと主張するが、右却下の事実を認めるに足る証拠がなく、却て成立に爭のない甲第一、二号証と証人北原良雄、大重正俊の各証言を綜合すると、原告は昭和二十二年十二月三日付俸給請求異議申立書と題する書面を被告に提出したが、右書面はその記載の文言並びに趣旨明瞭を欠き内容を的確に理解することが困難であつたので被告においてこれをそのまま異議申立書として受理することを留保し、当時原告において被告に対し給料請求権ありとして支拂命令を申立てており且つ被告において原告に傳達すべき未拂給料の残額があり当時の大阪市経済局庶務係長滝川正道において原告方に赴くこととなつていたので同月十日頃同人をして原告に右書面の意味を釈明させたところ、原告は給料に関する自己の誤解をさとり右滝川が持参した右給料を全部受領するとともに、右支拂命令を取り下げ且つ叙上俸給請求異議申立もこれを撤回するとの話合が成立したことところがその後原告から右書面の審理を求めて來たので更めてもつと明瞭な内容の書面を差し出さすため同月十七日右原告提出の申立書を原告に返戻したことが認められる。右認定を覆すに足る証拠はない。もつとも成立に爭のない甲第三号証によれば原告提出にかかる申立書の上部に本異議申立書は本人の意思により取り下げを行つたものであるとの文言が赤書され且つ抹消されているが、証人大重正俊の証言によるとこれは前段認定した如く原告が前叙の申立書を撤回したので同証人が右の如き文言を書き入れたがその後この書面を返戻するにつき抹消したことが認められるのであつて、元よりこれをもつて原告の申立を却下したものとは見ることはできない。そうすると被告の却下処分の存在したことを前提とする原告の本訴請求は理由がないというの外はない、よつて本訴請求は失当であるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の如く判決する。

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